学位審査会スタート
W教授:「それではただいまからTさんの学位論文審査会を始めます。最初に、発表45分、質疑応答15分、その後オーディエンスには退席いただいてクローズでのディフェンスを15分、最後に審査官4人にて審査を行った結果を、Tさんにお知らせします。」
W教授:「また、ご本人には事前に伝えてありますが、発表は45分ということでお願いします。5分前にベルを鳴らします。よろしいですね?ではお願いします。」
この後は、事前練習でK講師に言われた「フォーマルを意識して。学会発表以上にきちんと。スライドばかり見ない。全体の雰囲気を見ながら。」そしてA教授の「とにかく最初は飛ばせ!45分を厳守せよ。」というお二人のアドバイスばかり気になって、冷静に話しているように装いながも、かなり私自身焦っていた。
そして、スライドが残り3枚、さあおしまいだぞと思った所でストップウォッチを見ると・・・32分!げげげ、飛ばしすぎ。ゆーーーっくり最後お話するが、結局35分そこそこで終了。
私:「・・・ということで、45分の発表時間をいただきながら、35分で終わってしまいました。申し訳ありません、以上で発表を終わらせていただきます。」
おいおい、主査の言うことちゃんと聞いていなかったでしょう、あなた!という目線が痛い。でもA教授は満足そう。とりあえず、私のせいじゃなく、A先生のせいなんですよ~という目線を送る。
さて質疑応答。こうなると10分発表短縮により、15分の質疑応答が25分になるなあ、こりゃまいったね。
と思いつつ、副査の先生方、お一人づつの質問から答えていく。皆さん思った以上に私の論文をよく読んでくださっているので、私のほうがかなりびっくり。お忙しい先生達なのにね。私とすれば大緊張する所かと思いきや、案外と楽しく時間を過ごす。きっと、自分の研究に質問してくださるというのは、興味を持ってくださっていることなので単純に嬉しいんですね。一応、私のべらんめえ口調、ぶっちゃけ口調にならないよう細心の注意を払って、フォーマルに回答をすすめる。ちょっと的外れの答えしちゃったなあーと思うこともあり、でも言い直すチャンスも逸してヘコむこともあり。でも、今まで投稿論文で厳しいことを書かれるレフリーコメントよりも、もっと親身な質問なので有難い。
で、もうそろそろ、25分は過ぎたんじゃないの?と思って時計を見ると、え!もう40分も副査質問が?これから主査から質問されるのに、これどーなってるの?と思った所で、
それでは私から・・・と主査から質問が入る。今回の博士論文の、いわばメインディッシュがランダム化臨床試験。となると、ジョンズホプキンスで公衆衛生学をMPHからDPHまで修めたW教授が最も得意とする分野だ。中間審査において私の研究を要再審査とし、更には大学での倫理審査会において、私の研究に何度もダメ出しをしたW先生。今回の博士論文審査会では、その臨床研究の結果を、W教授にお知らせする形になった訳です。
今回も審査でダメ出しされるのかな、ということを覚悟して審査会に臨んでいたのですが、驚くほどW教授は研究に好意的な印象。こりゃいけるかも知れない。
で、結局公聴会が50分近くかかり、続けて行われたクローズの質疑応答は、たった5分位に。しかも終始なごやかムード。どちらかというと本筋から離れた質問で。服薬アドヒアランスが平均して97%ってすごいですよねー。臨床家から見たら珍しいよね。いいところ60%程度じゃないの?何か工夫した?いやあ既に服薬指導しっかりしていただけなので。ちゃんと服薬していた証拠はあるの?血中濃度まで調べていませんから確実なことが言えませんが、薬を増やすことにつながるから、まずはちゃんと飲んで、それで血圧が低ければ止められるわけだから、と伝えると皆さんガンバッテ服薬して下さいますね、止められることを期待して。ふーん、うちの母なんか、飲んだり飲まなかったり忘れたり・・・この忘れるっていうことが問題なのかなあ。でも忘れる方はどんなことをしても忘れますよね。確かに!毎回誰かが「飲ませる」ことをするのもねえ。なんて世間話から、私の大得意な「ぶっちゃけ話」に突入。先生方もフォーマルに疲れちゃったのかな。
W教授:「はい、では退席していただいて、これから審査に入ります。」
私が廊下に出ると、K講師とC先生、それに秘書のOさんが待ってくれていた。すみません、お待たせして。みんながお疲れー、良かったよーと慰めてくれる。K先生は、「今のクローズでの議論が重要なんだけど、雰囲気どうだった?」
私:「はあ、服薬遵守の件で、我が家の母はこんなちゃんと薬飲まないなあ、なんてぶっちゃけ話になりました。」
K講師:「だよなあ。なんか笑い声っぽいのが聞こえて、おかしい雰囲気だなと思っていたけど、それなら大丈夫そうだ。」
それではどうぞ、とほどなく呼ばれ、部屋に入ると、W教授から「審査の結果、合格といたします。ただし、論文は大きく修正が必要です。主査副査のコメントを元に早急に修正後、提出してください。期限は来週いっぱいです。」
目の前でO教授が(みんなに見えないように)拍手してくれていた。ありがとうございます。
先生方がおめでとう、と言って退出するのを見送って、また一人撤収作業に入る。
その間、W教授が廊下で私が出てくるのを待っていたK講師に、「本当によく頑張った。きっと良い雑誌に掲載されるでしょう。K先生もサポートよろしく。」とおっしゃって下さったとのことだ。
確かにW教授の指導は厳しく、中間審査が不合格→学位論文提出基準が満たされない→退学→指導教授の異動先で論文博士、という道しかない、という状況にまで一時陥っていました。が、結果的には中間審査の合格をいただいて、さらに普通では教授クラスしか出席しない大学の倫理審査会に、教授の命を受けて説明する、という名目で院生の私がその会議に出て審議を受ける機会を得られたというのも、今から思えば良い経験でした。そしてまだunder reviewとはいえ、研究結果も国際誌へ投稿できるほどの内容に仕上がりましたし、結果よければ全て良し。W教授のおかげで論文にさらに磨きがかかったのも事実です。他の大学では主査=自分の指導教授、というシステムが多い中で、私のいる大学は主査=他の研究室の教授、というpeer-review方式が遺憾なく発揮された良い例なのだと思います。(このpeer-review方式は、専門が特殊だと他の研究室の教授であっても審査が難しく、悪習だと言われる場合も多いのが事実ですが)
みんなで祝勝会としてランチを楽しく食べた後、浮かれて鼻歌まじりの私に、
K講師:「まだ学位記もらってないんだから、さっさと論文修正して。」
ハイ先生。そーでした、まだ仮免許中の身。
でも、週末半日位は、シャンパン開けて、好きな食べ物こさえて宴会しちゃお、そうしちゃおうっと
。



Recent Comments